終戦80周年企画「野火」「ジョニーは戦場へ行った」鑑賞した感想

終戦80周年を迎えるということで、KADOKAWAが配給する戦争に関連する「野火」と「ジョニーは戦場へ行った」が劇場にて4Kでリバイバル上映されています。

私が知ったのはYouTubeでホロライブの戌神ころねさんが紹介動画をあげてくれていたおかげです。良い機会にめぐり合わせてくれてありがとうございました。

さて、私が鑑賞しに行ったのは東京・有楽町にある角川シネマ有楽町です。東京駅から有楽町方面まで歩いていく機会はちょくちょくあり、存在は知っていました。

しかし、いざ行ってみるとビックカメラの上にある1スクリーンのみの小さい映画館ということで、その存在は普段行く映画館とは違ってなんだかちょっと新鮮でした。

平日の1番最初の上映会ということもあり、1番最初に上映される「野火」は高齢者が多かった印象です。流石に大盛況というわけではなかったですが、それでもチラホラと席は埋まっていましたね。

その後小休憩を挟むぐらいの時間で「ジョニーは戦場へ行った」も上映されました。私は続けて鑑賞する形でどちらもチケットを取りましたが、結構観客は入れ替わりました。先ほど紹介した戌神ころねさんの存在や、もともと名前だけは有名な気がするので、若い人(と言っても30代とか)が結構多かったですね。

さて、前置きはこれくらいにして、それぞれの作品の簡単なあらすじと、感想を語っていきたいと思います。

目次

「野火(1959)」作品紹介

INTRODUCTION

自身のフィリピンでの戦争体験を基にした大岡昇平による戦争文学の最高傑作「野火」は1951年に発表され、第3回読売文学賞・小説賞を受賞。第二次世界大戦下、フィリピンのレイテ島を舞台に、病魔に侵された中年兵士が飢餓と孤独に苦しんだ末、目の当たりにした陰惨な戦場を描く。監督は『ビルマの竪琴』『東京オリンピック』『犬神家の一族』などの市川崑。脚本・和田夏十とタッグを組み1959年に念願の映画化。映像美の巨匠・市川崑が戦争における人間の真の姿を映し出した本作は、第33回キネマ旬報日本映画ベスト・テンほか国内だけなく海外でも高い評価を受け、第14回ロカルノ国際映画祭®グランプリ、ハンブルグ映画祭優秀映画賞、バンクーバー国際映画祭カナダ映画協会賞を受賞。2014年には、塚本晋也監督の同名作も公開され大きな話題となった。

STORY

第二次世界大戦末期、フィリピンのレイテ島。日本の敗北が濃厚な状況下で、肺病を患った一等兵・田村は部隊から追い出され、病院からも食糧不足を理由に入院を断られる。病院の前で、田村は同じく厄介者として見放された若い兵の永松、足の負傷で歩けなくなった中年兵の安田と出会う。病院が襲撃され、一人逃げた田村は、飢えに駆り立てられるように熱帯のジャングルを彷徨う。途中、別の部隊に同行するが、米軍の一斉砲撃により他の兵士たちは全滅し・・・。

「野火(1959)」感想

まず私事なのですが、モノクロ映画を劇場鑑賞したのは初めてかもしれません。1959年の作品とあって、映画の作りや音楽の臨場感が言い方はアレですがレトロで、普段このぐらいの年代の映画を観る機会がない人間にとってはそれもまた面白い点でした。

また、当時の日本人俳優の方々は彫りが深い方が多くて2枚目俳優さんが多いですね。ちなみに、主演の船越 英二さんはサスペンスドラマの帝王こと船越 英一郎さんのお父様なんですね。

ちなみに、2015年には塚本晋也監督が原作小説を元にした同タイトルの映画を作られていますが、予告だけでの比較になりますが、モノクロの1959年の物の方が個人的には雰囲気や怖さが勝っているように感じました。

さて、余談から入ってしまいましたが、昨今の戦争映画と呼ばれる物で多いのは、戦争の最前線で敵軍と戦闘を繰り広げる作戦の一幕とか、戦争の重要な局面となるシーンが多いのではないでしょうか。

本作が描いているのは、第二次世界大戦の敗戦が目前に迫る末期、部隊が散り散りになってしまい、もはや何と戦っているのかも分からないような日本兵たちの姿です。おまけに場所はフィリピンで、彼らは自分がどこにいるかも分からない、何をすれば良いかも分からないような状況です。

資料によると日本軍の戦死の6割が餓死と言われているそうです。多くの方が野垂れ死にされたのです。この映画では、その状況が非常にリアルに描かれていて、映画でよく見る暴力的な恐ろしさも含みながら、戦争の残酷な現実が詰まっているように感じました。

激しい銃の撃ち合いなどほとんどありません。病気になっても、「お前のように1人で歩ける者は病院に置いておけない」と追い出され、食料と言って芋を1つ2つしか渡されず、それさえも奪い合ったりする世界です。そして人はどんどん形相が変わり、食べ物が無くなり生きるために狂っていってしまう……。

顔見知りの兵士がどんどん狂っていってしまう。それは主人公も含めてです。その過程が非常に残酷で、恐ろしさを感じました。人道的に許せない行為を目前にしても、それは生きるために必要なことなら許されるのか。非常に難しいですよね……。

まだ殺し、殺されを描いた方がマシだと言いたくなるほど、飢えで苦しみ狂っていく人の姿は生々しく残酷でいて恐ろしい。戦争で、ただの一等兵は何と戦わされていたのでしょうか。
ただ口で「戦争は良くない」と言うのは簡単ですが、ペラペラな言葉ではなく、もっと力を込めて「戦争は良くない」と言えるようにしてくれる作品でした。

「ジョニーは戦場へ行った」作品紹介

「ジョニーは戦場へ行った」INTRODUCTION

赤狩りによりハリウッドから追放されるも、『ローマの休日』『黒い牡牛』『スパルタカス』など脚本家として多くの名作を生み出し、2015年には彼をモデルにした映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』も公開されたダルトン・トランボ。彼がアメリカの軍歌でも使われた志願兵募集の宣伝文句“Johnny Get Your Gun”のパロディをタイトル(原題)に据え、第一次世界大戦時に身体のほぼ全ての器官を失った青年兵士の視点から戦争の闇を暴いた反戦小説「ジョニーは戦場へ行った」。第二次世界大戦直前の1939年に発表し物議を醸した問題作を、ベトナム戦争中の1971年にトランボ自らの脚本・監督で映画化。第24回カンヌ国際映画祭®で審査員特別グランプリほか三冠に輝き、日本でも1972年度芸術祭大賞を受賞した戦争映画の名作が50年以上の時を経て4K版日本初公開。

「ジョニーは戦場へ行った」STORY

ジョーが目を覚ますと、病院のベッドの上に横たわっていた。第一次世界大戦下、志願してヨーロッパ戦線に出征したアメリカ兵の彼は、砲弾により目、鼻、口、耳を失い、運び込まれた病院で両腕、両脚も切断。首と頭がわずかに動き、皮膚感覚だけが残ったが、姓名不詳の<407号>と呼ばれ、軍部の実験材料として生かされる。鎮痛剤を打たれ意識が朦朧とする中、ジョーは想いを巡らせる。最愛の恋人カリーンとの出発前の一夜、釣り好きだった父親と過ごした日々…。

「ジョニーは戦場へ行った」感想

鬱ジャンルなどでタイトルは非常に有名な作品ですね。私も事前にタイトルやあらすじは耳にしていました。
しかし、意外なことにサブスクリプションサービスで配信をしていないのです。この機会に4Kで劇場鑑賞できたのは非常にありがたい機会でした。

さて、戦争(反戦)映画として今回は取り上げられているわけですが、作中は6割ぐらいが病室のベッドの上で、戦争映画という感じは個人的にはありませんでした。とはいえ、作中にも表記されているのですが、戦争によって手や足などを無くす身体的損傷を負った人は数万人いるということで、戦争被害者の映画には違いありません。

ただ、私は事前に「鬱映画だよ」「気分が悪くなるよ」と言った情報を山ほど耳にしていたわけなのですが、たしかにネガティブな面が強いのは確かなのですが、特に胸糞悪いような感覚にはなりませんでした。(最後のシーン以外はね)

その理由は、喜怒哀楽と言いますか、感情のジェットコースターが起こるような物語ではなく、開幕から体の大半を失ってしまったジョーという事実が突きつけられているため、これ以上負の方向に心の揺れ動きが無かったためでした。

また、それに加えてジョーの独白や夢の世界の描き方と、現実のベッドの上の姿の対比がモノクロとカラーで描かれ、映像作品として美しいとまで思ってしまいました。なのでどちらかと言えば、ちょっとアート寄りな映画なのかなと感じました。

グロテスクなシーンが全くないのでその点で安心したのもあったと思います。そういった演出無しで、ここまで悲惨な状態のジョーを描くのは、映画の作りとして非常に工夫されてるなと普通に感心してしまいましたw

戦争というテーマのほかに、人の尊厳や人道に訴えてくる作品だと思いました。植物状態の人と比較されることがありますが、本作のジョーはこの状態で意識があり、体を動かすことができ、たしかに生きている状態です。ただこのまま生かしてあげるのが果たして正しいのか、それが物語の最後に描かれているわけですが、感情のジェットコースターが起こるとしたらそこですよね。

本当の本当に、最後の最後が最も観ていて辛く、そして怖かったです。

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